非上場株式の評価方法の見直しについて
前回(2026年1月)のコラムでは、「経営者が今すぐ始められる事業承継対策」につい
て取り上げる予定としていました。しかし、その予定を少し変更します。というのも、事
業承継に大きな影響を与える可能性のあるニュースが飛び込んできたからです。
今年の4月に、日本経済新聞で「非上場株式の相続評価見直し、国税庁が過度な節
税を抑止」という記事をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
現在、国税庁の有識者会議では非上場株式の評価方法の見直しについて議論が進
められています。現時点では、令和9年度税制改正大綱で一定の方向性が示され、
その後、令和10年から新たな制度が施行されるのではないかとの見方が高くなって
います。
今回の見直しの発端となったのは、令和6年11月に会計検査院が公表した「令和5年
度決算検査報告」です。要点を整理すると、
・会社規模区分の違いによって生じている評価の不公平感を是正すべきではないか
・約60年前に整備された評価体系を、現在の社会経済情勢に合わせて見直すべきで
はないか
という問題提起であったと理解しています。
これらの指摘は、制度の公平性という観点から見ればもっともな内容だと思います。
実際、現行の評価方法を利用して株価を引き下げ、事業承継を進めるスキームが活
用されてきたことも事実です。しかし、そのような対策が行われてきた背景にも目を向
ける必要があります。
休廃業する企業の半数以上は黒字企業であると言われています。もちろん、後継者
不足という人的な問題も大きな要因ですが、それだけではありません。後継者が株式
を承継する際の相続税や納税資金の確保といった経済的な負担も、事業承継を難し
くしている大きな要因の一つだと考えています。
制度の公平性を高めることは重要ですが、中小企業の円滑な事業承継とのバランス
にも十分配慮した制度設計が望まれるところです。
国は本当に事業承継を進めたいのか
日本経済を支える中小企業は、国内企業数の99.7%を占めています。
その多くは非上場会社であり、株式は市場で売買されていません。しかし、市場価格
が存在しないからといって価値がないわけではありません。
株式を譲渡したり、相続や贈与によって承継したりする場合には、税法上の評価方法
に基づいて株価が算定され、その評価額をもとに税金が課されます。
前回のコラムで「事業承継と相続は表裏一体」とお伝えしたのは、まさにこのためです
。
親族内承継であれば相続税や贈与税が直接関係しますし、親族外承継やM&Aであ
っても無関係ではありません。株式を譲渡すれば、その対価として多額の現金等を受
け取ることになり、相続財産の構成は大きく変わります。また、令和8年度税制改正で
導入されたミニマムタックス制度についても留意が必要です。超富裕層への課税強化
策として導入された制度ですが、M&Aによる株式譲渡などで一時的に高額な所得が
発生した場合には、影響を受ける可能性があります。
今回の非上場株式の評価方法の見直しは、約60年ぶりとなる大幅な制度改正になる
とも言われています。詳細はまだ明らかではありませんが、株価評価が現在より高く
なる方向性も指摘されています。
事業承継や相続対策は、本来、時間をかけて進めることで効果を発揮するものです。
財産を計画的に承継することで、税負担を平準化し、納税資金の準備もしやすくなり
ます。だからこそ、これまでの制度を前提に対策を進めてきた経営者にとって、評価
方法が大きく変わることは少なからず影響があります。さらに、非上場株式の納税猶
予制度の特例措置についても、現時点では令和9年12月末で適用期限を迎える予定
となっています。
こうした制度改正が重なる中で、「本当に中小企業の円滑な事業承継を後押しする制
度設計になっているのだろうか」と疑問を抱く経営者も少なくないのではないでしょう
か。
経営者が今すぐ始められる事業承継対策の第一歩
本当は今回、このテーマを中心にお伝えする予定でしたが(笑)、制度改正の話だけ
で随分と紙面を使ってしまいました。
そこで今回は、経営者の皆さまにぜひ取り組んでいただきたい「第一歩」だけをお伝
えします。
「事業承継対策」と聞くと、「後継者」「自社株」「従業員」「経営」など、さまざまな要素
が頭に浮かびます。
どれも重要ですが、一度に考えようとすると複雑すぎて、「何から始めればいいのか
わからない」という状態になり、結果として先延ばしになってしまいがちです。
私がおすすめする第一歩は、とてもシンプルです。
「もし今日、自分に万が一のことがあったらどうなるだろう。」
そう考えてみることです。
いきなり会社全体のことを考える必要はありません。まずは、ご自身のことから整理し
てみてください。
・ご自身の財産(資産・負債)には、どのようなものがありますか。
・それぞれの金額を把握していますか。
・借入金がある場合、返済や保証の問題はありませんか。
・ご自身がいなくなっても、会社は円滑に経営を続けられますか。
・万が一、相続税が発生した場合、預貯金などで納税資金は確保できますか。
・ご家族や相続人の間で、相続をめぐるトラブルが起きる心配はありませんか。
経営者の皆さまにお願いしたいのは、「現状を把握すること」です。
ここでいう現状把握とは、単に財産の金額を正確に把握するということだけではあり
ません。
「今、自分はどのような状況にあるのか」「どこに課題があるのか」を、ご自身で認識
することです。
もし、今挙げた項目の中で「よく分からない」「少し不安がある」「答えられない」と感じ
るものがあれば、それに気付けただけでも立派な第一歩です。
そして、答えられない項目があれば、ぜひ顧問税理士に相談してみてください。それ
だけで、もう第二歩を踏み出しています。
もし相談しても十分な対応が得られない、あるいは事業承継について積極的な提案
が受けられないのであれば、その部分だけでも他の税理士若しくは他の士業等、専
門家に相談してみることをおすすめします。「顧問税理士に申し訳ない」「気が引ける」
と遠慮される方もいらっしゃいますが、その必要はありません。
事業承継は、一度判断を誤ると取り返しがつかないこともあります。だからこそ、納得
できるまで専門家の意見を聞き、ご自身が安心して次の一歩を踏み出せる環境を整
えることが大切だと私は考えています。事業承継は、特別なことから始める必要はあ
りません。まずは現状を知ること。その一歩を踏み出すことが、会社とご家族の未来
を守ることにつながります。
税制改正の方向性を踏まえると、一歩を踏み出すのは、やはり早い方が良いようで
す。
事業承継士・税理士 清野 裕子
