事業承継の前に見直したい「社会保険の引き継ぎ」
事業承継を考えるとき、不の財産になってしまうものとして、社会保険手続き不備があります。
また、社会保険は、従業員の生活を支える大切な制度です。
医療を受けることができること、正しい年金記録から将来の給付まで、従業員の“安心”がここにはあります。
承継前の会社で、これらの手続きが正しく行われていなかった場合、後継者にそのままリスクを引き継がせてしまうことにもなりかねません。
また事業を「つなぐ」とは、人の生活や安心も一緒に引き継ぐこと——だからこそ、健康と厚生年金保険の状態を今いちど確認することが大切になります。
健康保険・厚生年金の手続き、きちんとできていますか?
自社では社会保険の手続きがしっかりできていると思っていても、実際に確認してみると、意外と手続き漏れや誤りが見つかるケースがあります。
たとえば——
・法人であるにもかかわらず、健康保険・厚生年金の新規適用手続きがなされていない
・役員や家族従業員について、加入義務の誤解がある
・従業員の手続きが適正にされていない
・合併や組織変更をしたのに、社会保険上の切り替えをしていない
こうした状態のまま承継を進めてしまうと、「うちは大丈夫」と思っていた会社が、実は“未加入扱い”だったり、従業員の年金記録や給付額に影響してしまいます。
社会保険の整備は日頃気にしていない場合が多いですが、承継時には棚卸ししておくべき重要項目のひとつです。
手続きが漏れていた場合に起こるリスク
もし自社で社会保険の手続きができていなかった場合、事業承継のタイミングで次のようなリスクが現実化します。
【保険料の遡及請求】
年金機構が「加入すべきだった」と判断すると、遡って保険料の納付を求められます。
会社負担分と従業員負担分の両方が請求され、承継後の会社が支払うことになる場合もあります。
【従業員の信頼低下】
従業員が「年金の加入記録がない」となれば、「うちの会社、大丈夫なの?」と不信感を持たれてしまいます。
これまで築いてきた信頼が、手続きひとつで崩れてしまうこともあります。
【行政からの是正指導】
社会保険未加入や届出漏れは、年金機構の調査で発覚することがあります。
是正勧告や報告書提出を求められ、承継段階で手続きに追われることにもなります。
【承継評価への影響】
M&Aや第三者承継を検討している場合、社会保険未整備は企業価値を下げる要因になります。
買い手側の調査で指摘されれば、条件交渉にも影響します。
“人をつなぐ承継”を支える社会保険労務士の役割
社会保険労務士は、会社・従業員の社会保険の状態を調べ、整えていく専門家です。
事業承継の前段階で、社労士が関与することで——
・社会保険の手続き状況を調査
・未加入・未届部分の是正
・後継者・従業員双方への説明支援
などを通じ、スムーズで安心できる承継をサポートします。
社会保険の整備は「義務」ではなく、「信頼の継承」です。
経営者がこれまで築いてきた“人との絆”を次世代につなぐために、まずは会社の社会保険の状態を点検することから始めてみてください。
事業を「つなぐ」とは、経営と人、どちらも大切に引き継ぐことです。そのサポートを事業承継士である社会保険労務士にご用命をお考えください。
事業承継士® 社会保険労務士 青島 有里
