はじめに:お金の流れを把握していますか?
前回のブログでは、事業承継にはさまざまな場面で“お金”がかかることをお伝えしました。
しかし実際のご相談では、こんな声をよく聞きます。
「事業承継にはお金がかかると聞いたけど、実際にいくら準備すればいいのか分からない」
「借入や保険で資金は用意してあるつもりだけど、足りるかどうかが不安で…」
こうした“漠然とした不安”の背景には、「お金の流れ」が見える化されていないという問題があります。
事業承継の場面では、いつもと違うお金の動きが出てくるため、タイミングを見誤ると承継そのものが滞ったり、事業の継続に支障が出たりすることもあります。
今回は、そんなリスクを減らすための鍵となる「資金繰り表」について、事業承継の観点からお話ししたいと思います。
1.承継のタイミングで、資金の“波”が押し寄せる
事業承継では、ふだんの経営では発生しない資金の動きが生じます。
例えば:
・株式の買取り資金(MBOや親族間売買など)
・相続税や贈与税の納付資金
・代償分割に伴う現金支払い
・保険料の支払い、保険金の受取り
・銀行借入の返済
・後継者の役員報酬・生活資金
これらが重なることで、“資金の波”が一気に押し寄せてくるのが事業承継の特徴です。
「納税に備えていたはずが、保険金の受け取りが間に合わなかった」
「株式買取りのため手元資金を使ってしまい、仕入れや給与の支払いが苦しくなった」
こうしたトラブルが起こる背景には、「いつ」「いくら」「どこに使うか」の見通しが立てられていないという問題があります。
2.資金繰り表は、“次の世代”への経営地図
そこで役立つのが、資金繰り表です。
資金繰り表とは、今後見込まれる「お金の出入り」について時系列でまとめたもので、承継における資金の動きを“見える化”するために欠かせないツールです。
特に事業承継では
・承継前の準備段階(借入、保険、株価評価など)
・承継時の支払い(税金、株の取得、諸費用など)
・承継後の運転資金・借入返済
という三つのフェーズで異なる資金ニーズが発生します。
こうした資金ニーズを俯瞰して整理できるのが、資金繰り表を作成する最大のメリットです。
さらに、後継者が会社のお金の動きを直感的に理解できるようになる点も大きなメリットです。
お金の動きが明確になれば、承継後の経営判断にも自信を持つことができます。
なお、事業承継においては、会社の資金繰りだけでなく、経営者や後継者個人の資金繰りについても考える必要があります。
退職金、相続税、株式の買取資金、生活費など、会社と個人のお金は密接に関係しているため、資金繰り表も両者を合わせて作成することが望ましいでしょう。
とどのつまり、資金繰り表は単なる資金管理表ではなく、“経営の地図”であり、“家族のお金の設計図”でもあるのです。
3.資金繰り表は、金融機関との信頼関係を築く道具にもなる
私は以前、金融機関で約20年間、中小企業の融資を担当していました。
その中で実感したのは、資金繰り表を作っている会社ほど、お客様の希望どおりの融資を受けやすいということです。
というのも、金融機関にとって「無理なく返済できるかどうか」は、融資審査の上でとても大切なポイントとなるからです。
さらに事業承継に関わる融資では、承継後の経営がどうなるのかについての見通しも重要になります。
・どの時期に、いくら必要になるのか。
・どこから調達し、どう返済するのか。
事業承継計画を資金繰り表に基づいて説明することができれば、経営者がきちんと将来を見据えていることが伝わり、金融機関からの信頼も高まります。
逆に、「何とかなると思って…」という感覚的な説明では、審査が通らなかったり、希望通りの融資が受けられなかったりする恐れがあります。
事業承継を円滑に進めるにあたり、資金繰り表は、金融機関との“共通言語”にもなるのです。
おわりに:忙しい社長にこそ、私たちがお手伝いします
「資金繰り表を作ったほうがいいのは分かっているけど、時間が足りない」
そんな声も多く聞かれます。
日々の営業や現場対応で手一杯な中、資金繰り表まで手をつけるのは現実的に難しい――それが多くの中小企業の実情です。
だからこそ、私たち専門家の出番があります。
「一般社団法人つなぐチカラ」では、在籍する各専門家が連携し、お客様の資金繰り表の作成や、その基となる事業計画・資金計画の立案をサポートいたします。
「数字は苦手」「とにかく忙しくて進められない」
そんな経営者の方こそ、ぜひ私たちにご相談ください。
一緒に、安心して次の世代へバトンを渡せる準備を進めていきましょう。
事業承継士®・中小企業診断士・司法書士 岡本 哲郎