会社を誰かに継いでもらうとき、まず考えておきたい「お金の話」

目次

はじめに:現場で何度も聞いた言葉

私は、金融機関で約20年間、中小企業への融資業務に携わってきました。

 業務を通じて、多くの経営者の方とお話しする機会がありましたが、よくこんな声を耳にしました。

「うちの会社、いずれ誰かに引き継がないといけないのは分かっているけど…」

「毎日忙しくて、正直そこまで考える余裕がないんだよね」

 社長ご自身が営業や技術、現場にも関わり、日々フル回転。

 資金繰りのこともあれば、社員のこともある。

 「承継の準備をしよう」と思っても、どうしても後回しになってしまうのも無理はありません。

 しかし、事業承継では「お金の準備」が必要となる場面が多く、何も手を打たずに時間だけが過ぎてしまうと、「もっと早く動いておけばよかった」と後悔することにもなりかねません。

 今回は、「どんな場面でお金が必要になるのか」「どう備えればいいのか」を、これから準備を始める社長のために、できるだけわかりやすくまとめました。

 まずは気軽な気持ちで読み進めながら、一緒に考えてみませんか?

1.株式を引き継ぐとき、こんなにお金がかかる?

多くの中小企業では、社長が会社の株式の大半を保有しています。

この株式を次の世代に引き継ぐには、「贈与」「相続」「売買」といった方法がありますが、いずれも費用や税金など、“お金”が必要になる場面が出てきます。

 たとえば、相続税や贈与税。

 株式の評価額が高ければ、数百万円、場合によっては数千万円単位の納税が発生することもあります。

 「タダでもらったのに、現金で税金を払うことになる」――そんな話も、珍しくありません。

2.中小企業の株は、実は“高くて売れない”

「うちは中小企業だし、株の価値なんてたかが知れている」

 そう思われている社長も多いのですが、実際には想像以上に高く評価されるケースがあります。

 非上場であっても、安定した利益が出ていたり、内部留保が厚かったり、不動産や設備などの資産を保有していれば、株式の評価は自ずと上がっていきます。

 その一方で、その株式を市場で売却することはできません。

 買い手も限られており、すぐに現金化するのは難しいのが実情です。

 つまり、「高く評価されるけれど、現金にならない」――そんな動かしづらい資産こそが、中小企業の株式なのです。

3.相続のことも考えると、やっぱりお金が必要

「長男に会社を継がせる予定だけど、他の兄弟にどう説明すればいいか悩んでいて…」

このような相談をいただくことも少なくありません。

 事業を継続するためには、後継者である長男が株式をすべて引き継ぐのが理想的です。

 しかし、株式の評価額が高い場合、それだけで相続財産の大半を占めてしまい、他の兄弟姉妹の取り分が少なくなることがあります。

 このとき問題になりやすいのが「遺留分」です。

 「遺留分」とは、たとえ遺言があったとしても、相続人が最低限の取り分を主張できる法的な権利です。

 これを侵害してしまうと、長男に対して他の相続人から現金での支払いを求められる可能性があります。

 また、遺留分とは別に、家族間のバランスをとるために「代償分割」として、長男が他の兄弟にお金を支払うケースもあります。

 いずれの場合も、株式の評価が高いと、それだけ支払う金額も大きくなります。

 そして、後継者自身にその資金がなければ、会社の資金を使うことになり、結果として経営資金に支障が出てしまうこともあるのです。

4.継いだあとに必要なお金も忘れずに

承継はゴールではなく、スタートです。

 後継者が事業を継続していくには、仕入れや人件費、家賃、設備の維持費など、日々の資金繰りが欠かせません。

 「株の取得や税金のことばかり考えていたら、肝心の運転資金が足りなくなった」

というケースも、実際に起きています。

5.どうやって備える?――借入と保険という選択肢

事業承継に必要な資金は、自己資金だけでは賄えないことも多く、以下のような方法で備えるのが一般的です。

・ 借入(融資)の活用

 政府系金融機関や一部の民間金融機関では、事業承継に特化した融資制度があります。

 事業計画や返済計画の策定は必要ですが、必要な時にまとまった資金を確保できる点が大きなメリットです。

・生命保険の活用

 経営者に万が一のことがあった場合に備え、保険金で相続税や株式の買い取り資金を準備しておく方法です。

 また、法人契約の保険を利用して、将来の資金を計画的に積み立てていくことも可能です。

 借入と保険、それぞれの特性を理解し、自社に合った資金戦略を立てることが重要です。

おわりに:まずは「知ること」から始めましょう

事業承継は、一気にすべてを整える必要はありません。

 まずは「どんな準備が必要なのか」を知ることが、第一歩になります。

 今回ご紹介したように、事業承継には想像以上にお金がかかる場面がありますが、事前に備えることで、負担も慌てることもずっと減らせます。

 「何から始めればいいのか分からない」

 「税金や株のことが難しくて…」

 そんなときは、信頼できる相談相手を持つことも、大切な備えです。

 私たち「一般社団法人つなぐチカラ」には、中小企業診断士、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなど、事業承継士®の資格を持つ多様な専門家がそろっています。

 経営・お金・家族・法律――それぞれの分野を横断して、社長とご家族に最適な承継のかたちをご提案します。

 「ちょっと話を聞いてみたい」だけでも構いません。

 どうぞお気軽に、お声がけください。

事業承継士®・中小企業診断士・司法書士 岡本 哲郎

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