中小企業経営者の皆様にとって、事業承継はいわば未来への重要な航海です。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、後継者の選定、資金調達、従業員の引継ぎなど、多くの課題が立ちはだかります。
事業承継という航海における「不動産」という羅針盤
経営者の皆様にとって、長年大切に育ててきた事業を次世代へ円滑に引き継ぐ事業承継は、その責任の重さから多くの不安やプレッシャーを伴うものです。検討のプロセスでは、事業そのものや後継者の育成に焦点が当たるものですが、不動産の活用如何が、事業承継の成否を大きく左右するといっても過言ではない側面があることはほとんど認識されていません。本記事では、この事業承継という未来への航海において、これまで見過ごされがちであった「不動産」が、いかに羅針盤のような役割を果たし、事業承継を成功へと導く大きな潜在力を秘めているのかを解説します。事業承継をご検討の際には、不動産が果たす役割の重要性をご理解いただければ幸いです。
事業承継の成否を左右する「不動産」の潜在力:経営者が認識すべき本質的な価値
中小企業の経営者の皆様は、不動産というと「事業を行う場所」や「会社の資産」として、事業用不動産のことを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、事業承継という視点で見ると、事業用資産としての側面にとどまらず、多岐にわたる重要な役割と機能を持っているのです。
「事業の場」「資産」だけではない、不動産の多角的な役割
事業承継における不動産は、単に事業活動の拠点となるにとどまらず、後継者の経営を支え、資金調達の担保となり、相続対策にも影響を与えるなど、多角的な側面と役割を担います。その価値を正しく認識することが、事業承継成功の第一歩となります。
事業継続の安定化に貢献する不動産の力
自社が所有する不動産は、賃料変動のリスクを回避し、長期的な事業の安定性を向上させます。また事業規模や将来計画に合わせた不動産の再編は、事業効率を向上させる機能を持っていると言えます。
財務体質を強化する不動産活用
遊休不動産の売却や賃貸不動産の所有を通じて、新たな資金を生み出すなど、企業の財務体質を強化することができます。また、適切な不動産の評価は、融資条件を有利にする可能性もあります。
後継者の負担を軽減する不動産戦略
事業承継時に、後継者が不要な不動産を引き継ぐことは、大きな負担となりかねません。事前に不動産の整理や有効活用を行うことで、後継者の経済的な負担を軽減するだけでなく、むしろ進んで引き継ぎたくなる魅力的な財務体質を創ることで、スムーズな事業承継を支援できます。
相続対策としての不動産の可能性
事業承継は、経営者個人の相続とも密接に関わります。車の両輪と言っていいでしょう。生前贈与や遺言による適切な不動産の承継計画は、相続時のトラブルを回避し、円滑な事業承継を実現するために重要です。
企業価値の維持・向上への貢献
戦略的な不動産の取得や運用は、企業価値を高め、事業全体の評価を向上させる可能性があります。これは、M&Aなどの事業承継においても有利に働きます。
事業承継フェーズごとの「不動産戦略」:事業承継戦略、現状把握から最適化、そして承継へ
事業承継を成功させるためには、各フェーズにおいて不動産が果たす役割を理解し、適切な戦略を立てることが不可欠です。ここでは、事業承継戦略立案段階、承継準備段階、承継実行段階、そして承継後の4つのフェーズに分け、それぞれの不動産戦略のポイントを解説します。
フェーズ1:事業承継戦略立案段階
事業承継の最初の段階では、どのような形で事業を承継するのか、その方向性を明確にすることが最も重要です。この戦略によって、不動産の活用方法も大きく左右されるからです。例えば、親族内承継や従業員承継を目指す場合、会社の株価を適切に抑えることが重要な課題となります。この際、事業用不動産の評価を下げる、あるいは賃貸不動産を所有するなどの活用方法が有効となることがあります。
一方、M&Aによって会社や事業を第三者に売却する方向性を選択する場合、会社の評価額が重要になります。この際、過剰な不動産や収益性の低い不動産は、会社や事業の評価を下げる要因となる可能性も出てきます。そのため、売却前に不動産を整理したり、事業に必要な不動産のみを残したりするなどの検討が必要となる場合があります。
このように、事業承継の戦略を早期に明確にし、その戦略に沿った不動産の活用方針を検討することが、その後のフェーズを円滑に進めるための重要な第一歩となります。
フェーズ2:承継準備段階
この段階では、まず自社が保有する不動産の現状を正確に把握することに加え、
- 所有不動産の徹底的な棚卸しと評価: 所有する不動産の種類、所在地、面積、築年数などをリストアップし、それぞれの資産価値を専門家による評価を通じて把握します。
- 権利関係の明確化と整理: 不動産の登記簿謄本などを確認し、所有権、抵当権、賃借権などの権利関係を明確にし、複雑な場合は整理を行います。
- 潜在的な課題とリスクの洗い出し: 老朽化、法令上の問題、担保設定の状況など、将来的な事業承継の妨げとなる可能性のある課題やリスクを早期に洗い出します。
フェーズ3:承継実行段階
現状把握を踏まえ、具体的な承継方法と不動産の活用方法を検討します。
- 最適な活用方法の検討: 事業の継続性、後継者の意向、財務状況などを考慮し、不動産の最適な活用方法(売却、賃貸、建て替え、リノベーションなど)を検討します。
- 後継者の意向を踏まえた不動産の承継方法: 不動産をそのまま後継者に引き継ぐのか、会社に残すのか、あるいは売却して資金化するのかなど、後継者の意向や将来の事業計画に合わせて承継方法を決定します。
- 税務・法務面からの最適なプランニング: 不動産の評価額に基づいた相続税や贈与税対策、法的な手続きなどを専門家と連携しながら計画します。
フェーズ4:承継後
事業承継後も、不動産の適切な管理と運用は重要です。
- 効率的な不動産の管理・運用体制の構築: 引き継いだ不動産を効率的に管理・運用するための体制を構築し、収益性の維持・向上を図ります。
- 事業成長に合わせた不動産の再編: 事業規模の拡大や事業内容の変化に合わせて、不動産の再配置や新たな取得などを検討し、常に最適な状態を維持します。
各フェーズにおいて適切な不動産戦略を実行することで、事業承継はより円滑に進み、後継者の負担軽減、強固な財務基盤構築、そして事業の持続的な成長へと繋がるでしょう。
専門家との連携が「事業承継×不動産」成功の鍵:つなぐチカラの役割
事業承継における不動産の課題は多岐にわたり、法務、税務、財務、そして不動産に関する専門的な知識が不可欠です。経営者様ご自身だけでこれらの複雑な問題を解決しようとすることは、時間と労力を費やすだけでなく、誤った判断を招き、事業承継の失敗につながる可能性さえあります。だからこそ、専門家のサポートが事業承継×不動産の成功の鍵となるのです。
- なぜ専門家のサポートが不可欠なのか?
不動産に関する法規制は複雑であり、税制も頻繁に改正されます。また、不動産の評価は専門的な知識と経験が求められます。事業承継においては、これらの要素を総合的に勘案し、最適な戦略を立てる必要がありますが、これは経営者様ご自身だけで行うには限界があります。専門家の知識と経験を活用することで、リスクを最小限に抑え、スムーズで有利な事業承継を実現できるのです。
- つなぐチカラの強み:多様な専門家による連携
一般社団法人つなぐチカラは、事業承継士®の資格を持つ多様な専門家が集結しています。弁護士、税理士、中小企業診断士、司法書士、社会保険労務士、FP、そして宅地建物取引士でありCPM®(米国不動産経営管理士)である私、石井をはじめとする専門家が、それぞれの知見を連携させ、お客様の事業承継を全面的にサポートいたします。不動産に関する課題はもちろん、法務、税務、事業戦略など、あらゆる側面から最適なソリューションを提供できるのが、つなぐチカラの強みです。
- 宅地建物取引士の視点:不動産の専門的なアドバイス
宅地建物取引士は、不動産の売買、賃貸、管理に関する専門家です。事業承継においては、対象となる不動産の適正な評価、有効活用方法の提案、不動産取引に関する法的な手続きのサポートなど、専門的なアドバイスを提供いたします。不動産の価値を最大限に引き出し、事業承継の知見を持った宅地建物取引士の視点は不可欠です。
- 弁護士、司法書士、税理士、中小企業診断士…各専門家の役割
- 弁護士、司法書士: 法的な側面から事業承継全体をサポートし、契約書の作成や法的なトラブルの解決にあたります。
- 税理士: 相続税や贈与税などの税務面での対策を立案し、節税のアドバイスを行います。
- 中小企業診断士: 事業の現状分析や事業計画の策定を支援し、事業承継全体の戦略をサポートします。
このように、各専門家がそれぞれの専門性を活かし、連携することで、お客様の事業承継を多角的・総合的にサポートいたします。
- 早期相談のメリット:時間とコストの最適化
事業承継は、早期に専門家に相談することで、時間的、経済的なメリットが大きくなります。早めに課題を把握し、対策を講じることで、無駄なコストや時間を削減し、スムーズな事業承継を実現できます。まずはお気軽にご相談ください。私たちつなぐチカラが、お客様の事業承継を全力でバックアップいたします。
結び:未来へつなぐ「不動産」のチカラ
本記事では、事業承継という重要な局面において、これまで見過ごされがちであった「不動産」が、いかに事業の未来を左右する潜在力を秘めているか、そして各フェーズにおける不動産戦略の重要性について解説してまいりました。
- 不動産を戦略的に活用することの重要性の再確認
単なる事業の拠点や資産の一部としての事業用不動産にとどまらず、不動産戦略は事業承継の成否を握る重要な鍵となります。その戦略的な活用は、事業の安定性を高め、後継者の負担を軽減し、財務体質を強化するだけでなく、相続対策や企業価値の向上にも繋がる可能性を秘めています。事業承継を成功させるためには、早期から不動産の視点を取り入れ、計画的に対策を講じることが不可欠です。
- つなぐチカラが提供できるサポート
一般社団法人つなぐチカラは、事業承継士®の資格を持つ多様な専門家が連携し、不動産に関する深い知識と豊富な経験でお客様の事業承継を全面的にサポートいたします。宅地建物取引士、弁護士、税理士、中小企業診断士など、各分野のプロフェッショナルが、お客様の状況やニーズに合わせた最適なソリューションを提供し、事業承継の成功に向けて共に歩んでまいります。
- 読者へのメッセージ:共に未来を拓きましょう
事業承継は、未来へ事業をつなぐための重要な一歩です。不動産の戦略的な活用と、専門家との連携を通じて、その航海をより確実なものにしませんか?私たちつなぐチカラは、皆様の事業承継が円滑に進み、輝かしい未来を迎えられるよう、全力でサポートさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。共に、未来を拓きましょう!
筆:事業承継診断士® 宅地建物取引士 石井英彦